VTS(visual thinking strategy)とは?

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「世界のエリートは、よく美術館に足を運んでいる」ーーそんな噂を耳にしたことはありませんか?

意外にも、アート作品を見ることが、能力開発につながるといった意見が、巷で話題になっています。

なかなか能力が開花せずに悩んでいたら、知識偏重になりすぎているのが1つの原因なのかもしれません。そのためアートという視点を取り入れてみるのも、ありなのではないでしょうか?

今回はアート作品をじっくり見て、ディスカッションすることで、能力開発を行う「VTS(対話型鑑賞法)」という手法を解説します。

VTS(visual thinking strategy)とは?

VTSとは、visual thinking strategy(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー)の略で、「対話型鑑賞法」という意味。簡単に言うと、アートを通じて鑑賞者の「観察力」「批判的思考力」「コミュニケーション力」を育成する教育カリキュラムです。

1980年代半ば、ニューヨーク近代美術館教育部部長のフィリップ・ヤノウィン氏が、子ども向けの美術鑑賞法として開発しました。そして現在では、アメリカでは約300の学校および約100の美術・博物館で導入されているそうです。

対話型鑑賞法の具体的なやり方は、次の3ステップになります。

VTS(visual thinking strategy)のステップ

ステップ1:予備知識なしで、アート作品を10~20分間鑑賞

まずは、作品名・作者・時代背景などの前知識を頭に入れずに、1つのアート作品を10~20分間じっと眺めます。ちなみに眺める題材は、おそらく絵画が取り組みやすいでしょう。もちろん、彫刻などでもかまいません。

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ステップ2:ファシリテーターが、鑑賞者に3つの質問をする

次に、ファシリテーター(進行役)が鑑賞者に、次の3つの問いかけをします。

質問1.この作品のなかで、どんな出来事が起きていますか?
質問2.作品のどこから、そう思いましたか?
質問3.もっと発見はありますか?

ステップ3:ファシリテーターのもと、ディスカッションを行う

最後にファシリテーター(進行役)のもと、グループディスカッション、もしくはクラス全体でのディスカッションを行い、理解や気づきを深めます。

なおファシリテーター(進行役)には、学校教員、美術・博物館教育普及担当および学芸員、学校のカリキュラム作成に関わる職員、行政の教育担当者がなることが多いでしょう。

VTSは、もともと子ども向けの教育カリキュラムでしたが、大人であるビジネスパーソンにも効果的です。実際、欧米のエリートビジネスパーソンや大企業の幹部教育にも使われているのだとか。

ではVTSによって、どんな効果が期待できるのか見ていきましょう。

VTSで期待できる効果・効能

先に述べましたが、VTSには、主に「観察力」「批判的思考力」「コミュニケーション力」を育成する効果・効能があります。このほかの特筆すべきメリットとしては、「直感力」の向上も。以下、この4つについてご説明します。

観察力の向上

VTSにより、じっくり見る力を養成することが可能です。たとえば世の中の動きをよく観察するようになれば、トレンドを察知しやすくなります。また人をよく観察するようになれば、他人の状況や気持ちを把握しやすくなり、リーダーシップなどが発揮しやすくなるでしょう。

批判的思考力の向上

VTSでは、ほかの人と意見交換をすることになるので、批判的思考力を養えます。ディスカッションの内容は、事実というより解釈、つまり正解はありません。それゆえ「その根拠はなんなのか?」といった批判的な見方、もう少しソフトに言うと論理的な見方ができるようになります。

コミュニケーション力の向上

VTSでは、ファシリテーターからの問いかけやディスカッションを通じて、コミュニケーション力の向上が期待できます。「自分の意見を述べる」「相手の話を聞く」「話の疑問点を質問する」といったことを通じ、言語能力もアップするのです。

直感力の向上

VTSは予備知識を取っ払いゼロベースで考えるので、直感力を磨くことが可能です。ビジネスの世界では、論理的に考えることが当たり前。しかし変化の激しい状況下では、論理的思考だけでは解決できない問題も多数あります。頭で考えても答えが出なかったとき、最後に頼りになるのは直感でしょう。

このように観察力・批判的思考力・コミュニケーション力・直感力の向上が期待できるVTSですが、問題はどう実践するかです。

VTSに参加してみよう

VTSを実践するには、「オンラインイベント」と「リアルイベント」に参加するという主に2つのやり方があります。

オンラインイベントに参加する

まずお手軽なオンラインイベントですが、イベント支援サービス「こくちーずプロ」というサイトで、参加できるものが見つかるかもしれません。配信媒体は、ほとんどがZoomになっています。

https://www.kokuchpro.com/s/q-VTS/

リアルイベントに参加する

もう1つのリアルイベントは、オンラインイベントと比べて実施回数は少ないです。昨今の新型コロナウイルスも影響しているかもしれません。

直近では、2022年8月20~21日に、VTC/VTS日本上陸30周年記念フォーラム2022 「対話型鑑賞のこれまでとこれから」が開催されました。会場は東京国立博物館 平成館大講堂、定員175名、参加費8,000円のイベントです。

このような大きなイベントは、年に数回あるかどうかなので、参加したい方はインターネットで定期的に検索するのがおすすめです。ちなみに、プレスリリースサイト「PR TIMES」で、よく告知されています。

もしイベントが見つからなかったら、2015年に出版されたフィリップ氏の著書『学力をのばす美術鑑賞 ヴィジュアル・ シンキング・ ストラテジーズ: どこからそう思う?』を読んでみてもいいでしょう。